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ハープ百科

グリッサンド研究 by 高田明洋

●グリッサンド・ペダル一覧表(PDF)

 ひとつの弦でフラット、ナチュラル、シャープの3つの音を作れるところから、となりあった弦を異名同音にして和音的グリッサンドを作ることができる楽器はハープだけです。ハープでは異名同音だけでなく例えばE♯とF♭などの、重減二度という理論上でしかあり得ないような和音も可能となります。それではさっそく例として、下のペダル表の通りに次のペダルを入れてみましょう。Ces, D, Eis, F, Gis, As, H。音にしてまとめればH, D, F, F, Gis, Gis, Hとなり、となりあった音はすべて異名同音か短3度の関係になります。これはディミニッシュというコード(和音)です。このように グリッサンドはかならずコードでできています。グリッサンドを作るには、基本的にそのコードを形成する音を必ず含め、その他の音はその和音と異名同音にしていき、それでも余った音は半音を含まないように、邪魔にならないところに置いていきます。どの音を強調するかによって、あるいはそのグリッサンドの出る前後の音によってもペダルは多少違うでしょう。ここでコードネームの簡単な解説と、Cでの各コードの作り方を説明します。そしてPDFファイルでA4サイズの4ページですべての調でのペダル一覧表と付録としてグリッサンドだけで弾ける曲を2曲載せています。この付録の曲は最初のコードに戻りますので、繰り返すことによって時間の調整がききます。音を途切らさずに次々とペダルを変えていき、簡単なデモンストレーションからファッション・ショーのような仕事にまで応用がきくでしょう。ここでは楽譜を使わずにペダル表で表しています。これはペダルの位置を示していますので右の表から場所と音の関係さえわかれば、ハープを持たない作編曲の方でもじゅうぶん理解できます。
   (注:PDFファイルを見るにはアドビ社のアクロバット・リーダーが必要です。
    これはアドビ社から無償でダウンロードできます。)
 コードネームは独特の記号で表されます。これも併せて覚えてください。クラシックのどのグリッサンドもほとんどがこのコードネームにあてはまります。パリッシュ=アルバースはソロ曲でディミニッシュのコードを好んで使っています。リストがその音に刺激されて彼の管弦楽曲に取り入れたと言われています。この頃からオーケストラでもハープのパートにグリッサンドが現れてきました。リストより少し年上のベルリオーズはこの効果に気付かなかったのか、管弦楽法の著書の中でもふれていませんが、その50年後のラヴェルになると実に多彩で効果的なグリッサンドを「ダフニスとクロエ」や「序奏とアレグロ」の中で聞くことができます。「序奏とアレグロ」では最初に出てくるグリッサンドがE♭7-9、アレグロに入ってからはC♯m6、E7、Hの全音階スケール、Gdim等々、まるで宝石箱をひっくり返したように次々と現れてきます。

C6 メジャー
根音と長3度、5度のドミソの音を持つ最も基本になるコードで、これをグリッサンドにするにはファをフラットにしてミと異名同音にし、シをシャープにすることでドと異名同音にする。6度の音を含んだCのメジャーコードをCシックススというが、ハープではどのメジャーコードも必ず6度の音を含んでしまうので区別しない。この場合は9度(レ)の音も含んでいるので正式にはCシックスナインスという。このグリッサンドの作り方はCの場合と同じようにその調のスケールから4度と7度のペダルを変えて4度と7度の音を消せばよいが、♭か♯が4つ以上のキーでは2度(9度)の音も消せるので、よりスッキリしたグリッサンドを作ることができる。

CMaj7 メジャーセブンス
CM7またはC7とも書かれる。根音から長7度の音(シ)を含んだメジャーコードのことで、さらに9度(レ)を含んだものをメジャーナインスという。Cの場合は必ず9度も含んでしまうので区別できない。さきのメジャーシックススの場合は単にC6と書かれるが、このセブンスとナインスは必ずMaj.をつけて後に出るドミナント・コードと区別する。C,G,D,F,B♭,E♭の各メジャーセブンスでは、2度と6度の音を含んでしまう(つまり4度の音を消すだけ)ので不満足なグリッサンドになる。A♭メジャーセブンスは2度と4度の音を、Aメジャーセブンスでは4度と6度の音を消すことができる。E,B,D♭,G♭の各メジャーセブンスでは4度と6度の他に2度(9度)も消して完璧なグリッサンドとなる。

Cm マイナー
根音と短3度と5度でできているコードで、メジャーと同じようにこれに6度も含むマイナーシックスス(min.6またはm.6)もあるがハープではペダルの関係ですべてのマイナーコードは6度も含んでしまう。マイナーのグリッサンドを作るにはまずそのキーの長音階にペダルをセットしてから3度を半音下げて短音階にし、2度と7度のペダルを隣の音と異名同音になるように変える。ところがこうしても4度(ファ)の存在が大きくて、とてもCマイナーには聞こえないでF9に聞こえてしまう(実際にF9と同じ)ので使えない。一覧表ではこれらの使い物にならないマイナーは除いてあるが、どうしても使わなければならない場合は4度を♯にしてしまえばかろうじてごまかせる。F,B♭,E♭,A♭,D♭の各マイナー(つまり♭が1~5つまでの調)では2度と7度の他にこの問題の4度の音を消すことができるので、完璧なマイナーシックススを作ることができる。

C7 ドミナント
セブンスとかナインスと一般的に呼ばれるドミナントコードはとても重要なコードで、この2つの他にもいくつかある。セブンスは根音から短7度の音を含んだメジャーコードで、ナインスはさらに9度(2度)を含んだセブンスコードである。このグリッサンドの作り方はその根音の完全5度下の音をトニックとした長音階のスケールにペダルをセットし(Cならヘ長調)、その1度(ファ)と3度(ラ)の音を消す。この時も9度の音を含んでいるのでセブンスとナインスを区別できないが、♯が3つ以上か♭が5つ以上のキーではセブンスとナインスをはっきり区別できる。他にイレブンスやサーティーンスというドミナントコードもあるが、これらはハープで作っても和音のように聞こえないので、ナインスで代用した方がよい。
次に比較的重要なドミナントコードとして次の5種類がある。

C7-9 ドミナント2
C7♭9とも書かれる。これから何か悪いことが起こりそうな不安感をいだかせるこのグリッサンドは、9度(2度)が半音下がっているセブンス。

C9-5 ドミナント3
C9♭5とも書かれる。グリッサンドのエッセンスのような響きは、ナインスの5度が半音下がっている。

C7-5-9 ドミナント4
C7♭5♭9とも書かれ、5度と9度が2つとも半音下がっているセブンスもある。

C7sus4 ドミナント5
サスペンディッド・フォースといって、長3度の代わりに完全4度を持ったメジャーコードを含んだドミナントコード。

Cm7 ドミナント6
3度が半音下がって短音階になったドミナントコードで、根音の短3度上のメジャーコードと全く同じペダルになる(CマイナーセブンスはE♭、AマイナーセブンスはCに)。ナインス以外では2度の音をなるべく消した方がきれいに聞こえる。

C+ オーグメント
Caugとも書かれる。根音から長3度が積み重なってできたコードで、これには作り方の法則が見つからないが、ドミナントコードのペダルから5度を♯にしていくと近くなる。このコードにもセブンスを含んだ、あるいはナインスを含んだものがあるが、ハープでは必ずどちらかを含んでしまう。

Cdim ディミニッシュ
とも書かれる。根音から短3度が積み重なってできたコードで、ハープでは完璧なディミニッシュコードができる為にとても美しく、また最も大切なコードの一つとして多用される。これにはすべてのコードにおいてCかC♯かDの音を含む3種類のペダルの組み合わせしかない。その3種類とはペダルが常にBDF:AC:EGの3つのグループに分けられて、それぞれのグループのペダルが♭かナチュラルか♯のどこかに固定される。従ってたとえばDdimの場合はBDFがナチュラルになり、ACのグループはBナチュラルと異名同音にする為に♭になる。すると残りのEGのグループは残った♯にすればよい。これはそのグループのペダルが短3度になっているからであり、B,D,F,A♭の各ディミニッシュはみな同じペダルになる。これと、上の表のCdimと、最後の一つはGdimなどの場合のEGがナチュラル、BDFが♭、ACが♯の3種類ですべての音のディミニッシュコードを完璧に作ることができる。

Zenonkai 全音階スケール
これは全音(長2度)の積み重ねでできたスケールで、1オクターブが半音を含まない6つの音でできている。グリッサンドとして用いられることは少ないが、これを作るにはペダルをCDEとFGABの2つのグループに分け、根音が♭か♯なら他のグループのペダルは全部ナチュラルに、根音がナチュラルなら他のグループのペダルは全部♭か♯にすればよい。

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